"

以前、アメリカにいたときに聞いた話です。

 有名なマネーコンサルタントがいる。クライアントにどのように投資すれば運用を成功させられるかアドバイスしたり、セミナーで参加者にどのような心構えがあればお金持ちになれるかレクチャーしたりする専門家。

 あるときコンサルタントの彼は思った。「本当に自分は人をお金持ちにする能力があるのだろうか。もしあるのであれば、相手がどんな人であってもお金持ちにすることができるはずだ。それを証明したい」。

 彼は、友人とロサンゼルスのダウンタウンに行った。そして、友人に無一文のホームレスを一人選んでもらい、そのホームレスをお金持ちにすると決めた。

 3か月かけて、投資の知識、交渉技術、お金に対する哲学、もてるノウハウのすべてをホームレスに伝授。もちろん、彼が代わりに投資するようなことは一切せず、ただそのやり方を教えただけ。

 3年後、ホームレスは100万ドルのお金を手にしていたといいます。

 ふと先日、15年前に聞いたこの話を思い出しました。

 考えてみると、自分はリーダーシップのコーチをしている。誰の中にもリーダーシップの芽があり、それを成長させることができると常々言っている。講演でもしゃべっている。であれば、自分は誰でもリーダーにすることができなければいけない。うだつの上がらない人物だとしても、リーダーにして欲しいと言われれば、その人をリーダーにしなければいけない。

 そこで浮かんできたのは、自分のある友人の姿でした。

 気軽に話しかけられる人柄ではあるが、それはオーラのなさの裏返し。自分から何かを決めることもなければ、未来に対する展望もこれといってない。存在感のない彼が、もし自分のクライアントだとしたら、どうやってリーダーに育てあげるだろうか。

 みなさんであればどうするでしょうか。

 ちょっと、自分の知っている誰かを思い浮かべてください。うだつが上がらず、さえない誰かさん。その人をリーダーにしなければならないとしたら?

 そんなことを考えていたら、前述の従姉、それに8年コーチをさせていただいているクライアントの成長ぶりが頭をよぎったのです。

 そして、思いました。何が何でもリーダーにふさわしくない人を何が何でもリーダーにしなければいけないとしたら、やはり「退路を断つ」ことだろうと。

 存在感のない私の友人がもし自分の部下なら、3、4人のチームをつくり、そのヘッドに彼を据え、「会社の未来を支える、いち早く戦力となる人を30人、採用してほしい」や「新規事業で収益を10億円上げてほしい」など、明快な半年後のゴールを提示する。予算を与え、「違法行為でなければ何をやっても構わない」と伝える。そして、「半年経ってゴールに到達しなければ辞めてもらうことになる」と告げる。以上。

 リーダーになるということは、最終的には、「すべては自分次第である」という感覚をもつことだと思います。一切の責任逃れを禁じ、あらゆることを自分に帰結させ、始まりから終わりまでのすべてを自分が握っていると思える感覚です。

 この感覚は、本では学習できません。MBAのクラスで授かることも絶対にできません。体得するには、やはり「後がない」という状況に身を置く必要があります。

 リーダーの育成に成功している会社は、次期リーダー候補に対してこれを実践しています。

 私の知人は35歳のとき、突然上司からの指示で、「アメリカの会社を買収してこい」と言われました。社運をかけた1000億円の買収です。失敗したら、彼や上司のポジションはおろか、会社そのものが吹っ飛んでしまう。事前の交渉から、何から何まで一手に託された。「バーベルを肩に載せた状態でジェットコースターに乗るような感覚だった」と彼は言います。

 紆余曲折ありながらも、最終的に彼はこの取引をまとめました。現在41歳ですが、取締役となっています。

 ネット販売の立ち上げを任せる。中国工場の設立を一任する。新規の異業種参入を委ねる……。次期リーダー候補に、失敗したら後がない状況ですべてを託す。
 この実践には、当然、会社のリスクが伴います。「失敗したらどうするんだ」という反対論も出ることでしょう。しかし、リスクをとらなければ、リーダーは育たない。

 リーダーを育てることとリスクをとることは、ほぼイコールなのです。

かくいう私もかつて会社のリスクを託してもらった一人でした。ある日、私どもの会社の社長だった伊藤守(現・会長)から、「これ、法人向けにもやろうよ」と言われました。

 それまでは個人を対象に営業してきましたが、法人も対象にしようと。要するに、法人事業部を立ち上げろということです。「自由にやっていいから、結果出して」。

 1年間、もがき苦しみました。1日に電話を100本かけ、月に10日ネットワークづくりのため交流会に参加し、様々な伝手をたどって企業訪問し……。それでも結果が出ない。

 だんだんと自分が被害者的になっていくのがわかりました。次から次へネガティブな言葉が頭をよぎります。「自分がやろうと思ったわけではない」「そもそもコーチングのマーケットを法人に作るのは難しいんだ」「自分はコーチであって営業マンになったのではない」。

 そんなあるとき、伊藤からメールをもらいました。メールにはたった一言、こう書かれていました。

「It’s up to you.(すべては君次第)」

 この言葉を読んで、視界が晴れていくのを感じました。そして、自分の中で何度も繰り返しました。

「すべては自分次第」

 退路のないところで、自分次第という感覚を培う。リーダーに成長するための欠かせないステップであることは間違いありません。

"